おもいをかさねて

残念ながら、ロマンチックな話、じゃない。
「重複」という字をみなさんはどう読んでいるでしょうか。私は「ちょうふく」です。
仕事柄、文字校正をすることも多いんですが、出版方面のガイドラインでは「ちょうふく」「じゅうふく」ともに可となっている。私の周りを見た印象では、4・6か3・7ほどの割合で「じゅうふく」派が多い。

私はこの読み方が好きではありません。「ちょうふく」の音はスマートで知的な響きがある。それに較べ、「じゅう」と濁音が入ると重い感じがする。そう、《重い》のです。


「重」の字には主に二種類の意味があります。「重い」と「重なる」です。
漢字だから、中国語での意味もほぼ等しい。現代中国語では「重」の音は、「重い」の意では「zhong」で、「重なる」の意では「chong」になります。zh、ch、の音から連想するところ、これは日本語の音読、じゅう・ちょう、と対応していると推測できます。


重い=zhong=じゅう
重なる=chong=ちょう


「ものごとが重なる、重ねる」の意味では「ちょう」の音になります。だから「ちょうふく」の方が正しいはず。
「捲土重来」も「けんどちょうらい(じゅうらい)」と辞書に併記されていることがありますが、「また来る」のだか「ちょうらい」の方が適切ということになります。

ひとつの意にはひとつの音を対応させる方が体系的でしょう。それを言ったら「重」の一字に、すでに二つの意味が分裂してしまっているわけですが、「重」の字形を見れば連想できるように、さながら『笑点』の積まれた座布団のようじゃないですか(「笑点」て変換されないのね)。「積み重なって、重い」と言うところから意味が分岐しやすかったのかもしれない。

しかし、自然言語はそこまで厳密に体系化されません。二重・多重・重箱・重職・重婚、どれも重ねる、重なるの意ですが、読み方はどうにも「じゅう」です。
「重々承知しています」と言うのも、「チョーチョー承知しています」などと言ったら、相手を馬鹿にしていると誤解されてしまうかもしれません。


想いと言うのは、なかなか重ならないものなのです。
(初出:2006.1.29.Sun)